石田 浩章
エンジニアとしてキャリアをスタートし、PMやUXデザイナーなどを勤める。一方でベトナムトップレベルの教育機関である国立ハノイ工科大学で客員教授や、外国人学生の日本企業への就職・受け入れ支援、新卒社員への研修担当など、外国人エンジニアの教育・就職支援・研修など育成に関する各領域を経験。支援した企業は数十社にのぼる。
目次
外国人エンジニアの受け入れで大切にすべきことは?
初めに、外国人エンジニアを新卒で受け入れる上で大切にしていただきたい考え方についてお話をします。私はエンジニアとしてキャリアを積み重ねるかたわら、ベトナムトップレベルの大学でテック系学生を教育し日本企業への就職・定着支援を行ってきました。
本記事では、私自身の経験から外国人エンジニアを新卒で受け入れる上で、企業が直面しがちな課題や気をつけた方が良いことについてお話ししています。とはいえ、記事を読み進めると気づくかもしれませんが、お話ししている内容は決して”エンジニア”という職種に特化したものではありません。むしろ国籍も関係ないかもしれません。
外国人エンジニアを受け入れて活躍してもらうために大切なことは、国籍や職種(理系や文系)という枠組みを飛び越えて、未来ある若手人材に活躍してもらうために大切にすることと共通する要素がたくさんあると考えています。そのことを踏まえてぜひ参考にしていただけると嬉しいです。
外国人エンジニアを新卒で受け入れる際に直面しがちな課題
それでは、外国人エンジニアを新卒で採用する日本企業の支援をする中で、相談を受けることが多かった課題を2つほどご紹介します。
日本企業の当たり前が伝わらない
1つ目は「会社の当たり前が伝わらない」というものです。例えば、日本では社会人の基礎として身につける”ホウレンソウ”という概念ですが、具体的に「何を」「誰に」「どのタイミングで」報告や相談をすれば良いのか理解するのは外国人エンジニアにとっては実は難しいものです。
日本人同士ならば”暗黙の了解”や”空気感”で察することができる事柄も、外国人エンジニアに対しては明確に提示する必要があります。
突然退職してしまう
あまり頻度は高くありませんが、受け入れた外国人エンジニアが突然退職してしまうケースもありました。若手の外国人エンジニアだったのですが、退職理由は「特定の技術を学びたいから」というものでした。問題は、上司を含め彼がその技術を習得したいと望んでいることを、彼から退職の意向を聞かされるまで誰も把握していなかったことです。
企業側としては「相談してもらえれば考慮したのに」と感じてしまうかもしれませんが、根底にあるのは外国人エンジニアのキャリアに対する考え方の違いを理解しきれていなかったことによるコミュニケーションのすれ違いが原因だと考えられます。
外国人エンジニアと国内人材の受け入れの違い
ではどうして上記のような課題が起こるのでしょうか?背景にあるのは、以下に記したような「外国人エンジニアと国内人材の違い」です。これらの違いを企業側がどれだけ理解を深められるかが、外国人エンジニアの受け入れを成功させる大きなポイントになると考えています。この項では、代表的な違いを3つほど紹介します。
日本語能力の差
1つ目は”日本語能力の差”です。当たり前と言えば当たり前ですが、外国人エンジニアと国内人材では母国語が違います。そのため日本人同士で会話するよりも平易な言葉で伝えることを心がける必要があります。さらには口頭でのみ伝えたり、”社内メール”や”社内報”で伝えた気になってしまうことも気をつけるべきポイントです。一度で理解できるとは思わず、同じ内容を繰り返し伝えたり、伝え方を工夫することを大切にしていただきたいと思います。
キャリア観の違い
2つ目は”キャリア観の違い”です。生まれ育ったバックグラウンドが異なるがゆえに、キャリアに対する考え方に多少なりとも違いがあります。外国人エンジニアの場合は”ひとつの会社の中での成長”に執着しない傾向があるように思います。だからこそ、会社側からキャリアパスや期待値を明確に提示し、何を学び、どう成長してほしいかを伝える必要があります。
コミュニケーションの価値観の違い
3つ目は”コミュニケーションの価値観の違い”です。特に日本人は日本語以外でのコミュニケーションを日常的に取る機会が少ないため、自然と暗黙の了解でコミュニケーションを取ってしまう傾向にあります。当然ながら外国人エンジニアがそれを理解するのは難しく、その認識の差に気づかないまま外国人エンジニアに対して指示を出していると、コミュニケーションの齟齬が生まれることになります。
外国人エンジニア受け入れ成功のポイントは?
外国人エンジニアと国内人材の受け入れにおける違いを踏まえた上で、外国人エンジニア受け入れ成功のポイントはどのような点なのでしょうか?あくまで経験則ですが、以下の3点を抑えることで外国人エンジニアの能力を引き出し活躍してもらう道筋が作れるのではと考えています。
生きた日本語を身につけてもらう
まずはコミュニケーションの基盤となる日本語能力についてです。日本語能力の向上を目的とした施策として、日本語学校への通学や日本語検定試験N1取得などを実施する企業が多いのですが、実はこれはあまり効果がありません。日本語学校やN1取得のための勉強で身につくのは”文法に則った標準的な日本語”であり、”実務に役立つ生きた日本語”ではないことが多いです。
標準的な日本語を身につけることに全く意味がないとは言いませんが、社内用語や特有のニュアンスを持つ言葉を含めて、仕事上のコミュニケーションで必要とされる日本語能力は日本人社員との直接的なコミュニケーションによって身に付きます。仕事に直結する”生きた日本語”を身につけてもらうためには、OJTや日本人社員との交流が最も効果的な手段です。
キャリアパスを明確かつ継続的に伝える
次に外国人エンジニアのキャリアパスについです。前提として、外国人エンジニアを採用する際には組織戦略として「なぜ外国人エンジニアを採るのか」という観点を持つことが大切だと考えています。単純に日本人が採れないからという理由ではなく、外国人エンジニアと国内人材それぞれの良さがシナジーを生み出す組織構成を描いた上で採用活動に取り組んでいただくことが理想的です。
先述したように外国人エンジニアと日本人社員のキャリア観には違いがあります。そのため受け入れの段階から「3年後に外国人エンジニアにどのように活躍してほしいのか」からキャリアパスを逆算し、具体的な内容に落とし込んで本人へ伝えるということが離職リスクを減らすことにつながります。
また一度伝えて終わりではなく、入社前・入社後研修中・OJT開始前・業務開始後などステージが変わるタイミングで継続的に期待値をすり合わせていくことも非常に大切です。
あとは言葉だけではなく、ロールモデルとして「こういう人になってほしい」という先輩社員を示すことも言葉以上に伝わりやすいケースもあります。
コミュニティで心理的安全性を担保する
自身の経験上ですが、外国人エンジニアを受け入れる際に企業が最も力を入れるべきことは”コミュニティづくり”だと感じています。”心理的安全性が担保されている状態”とも言い換えられるかもしれません。
冒頭で紹介した企業が直面しがちな課題に関しても、根本的な要因はお互いに信頼が築かれておらず本音で話すことができない関係性だと感じています。外国人エンジニアと日本人社員との間に信頼感が築かれていれば、多少コミュニケーションのすれ違いが起きたとしても理解し解決策を見つけるまで話し合うことができるようになります。
外国人エンジニアにとって心理的安全性が担保されるコミュニティ作りのポイントは3つほど挙げられます。
- 企業側から外国人エンジニアへ歩み寄る
- 質よりも量を重視する
- 話に耳を傾ける
特に2に関して、日本企業は飲み会や1on1などイベントごとでコミュニケーションを取ろうとしがちですが、むしろ量を大切にして、日常的に話しかける習慣を作るなどの意識を持つ方が効果的だと思います。
外国人エンジニア受け入れの成功事例を紹介!
外国人エンジニアの受け入れに関する成功事例をいくつか紹介します。
成功事例①外国人エンジニアだけのチームを作る
成功事例の1つ目は、”日本人社員が信頼できる”既存の外国人エンジニア社員を、新しく入社してくる外国人エンジニアのチームリーダーにするパターンです。仕事の指導からプライベートのコミュニティづくりまでをリーダーに一任することで、日本人社員との橋渡しになってもらうイメージです。
注意しないといけないのは、他の日本人チームとは独立したチームとして認識し、尊重することです。彼らのやり方に口を出してしまうと指示系統が混乱することになりかねません。だからこそ、リーダーに対していかに信頼を置けるかどうかがポイントになります。
成功事例②中途の外国人エンジニアをメンターにつける
他に成功事例としてよく見かけるのは、新卒で外国人エンジニアを採用した際に、彼らが入社するまでの1-2年の期間を利用してすでに日本企業で活躍している中途の外国人エンジニアを採用するパターンです。
中途の外国人エンジニアをメンターとしてつけることで、仕事以外の生活習慣なども含めて頼れる存在として期待できると思います。
その他の外国人エンジニア受け入れへの効果的な施策
上記に加えて、外国人エンジニアを受け入れる際に効果的だと考えられる施策を2つほど紹介します。
入社時の研修で日本企業の当たり前を習慣化する
ひとつは入社時の研修を活用するケースです。日本人的な考え方や価値観について頭で理解していても、習慣化するのには時間がかかります。そこで、研修の中の課題のひとつに日本人なら当たり前と感じてしまうような習慣を取り入れるのです。
例えば「メモを取ること」。私は主にベトナム人学生の就職支援に携わってきたのですが、実はベトナムという国にはメモを取るという習慣がありません。そういう方々に対して「メモを取ってね」と言葉だけで伝えても、すぐに習慣化できるわけではありません。
そのため研修の中で「メモ帳を作る」という課題を与えて、その日に学んだことや調べたことをメモに残す作業を反復することで、自然とメモを取ることを習慣づけてもらうことができるのではと考えています。
この様に日本で仕事をする上で基礎として身につけておくべき考え方や価値観などを、研修の中で仕組みとして取り入れて身につけてもらうこともおすすめです。
既存社員への研修も効果的
盲点になりがちですが、受け入れ企業の既存社員への研修も実は有効な手段のひとつです。日本で生活していると、外国人がどこに違和感を覚えるのかや何が暗黙の了解として受け入れられているのかに中々気づくことができません。
まずは認識の差を理解し、組織内に外国人エンジニア受け入れの土台を作るという意味でも、既存社員への研修はぜひ検討していただきたい施策です。
まとめ
外国人エンジニアの受け入れについて、課題や成功事例を交えてお話してきましたが、一番伝えたいのは外国人エンジニアに対して「国籍が違うからといって先入観やステレオタイプで見ることはせず、他の社員と同様真摯に向き合い対応してほしい」ということです。どんな人材でも心理的安全性が担保された環境でこそ能力を最大限発揮することができるはずです。そのことを念頭に置いて受け入れ体制を構築していただければ、組織へ新しい価値観をもたらす人材と出会うことができると思います。