眞田 正志
大学を卒業後、株式会社プロトコーポレーションへエンジニアとして就職し、プロジェクトマネージャーを経て最年少で新規事業部門責任者になる。幼い頃から夢だった教育に携わる夢を実現するため、2017年にSun*教育事業部に参画しベトナム(ハノイ)に赴任。責任者として事業を牽引しながら自らも教壇にたち続け、産学連携する4カ国12大学2,700人の学生に対して、就業を意識した実践的な教育を提供している。

日本企業とベトナム人エンジニアの関係

まずは前提として、これまで日本企業とベトナム人エンジニアがどのような関係性を築いてきたかについてを振り返ります。

オフショア開発のパートナーとして人気のベトナム

「オフショア開発白書」(2023年版)によると、オフショア開発先の人気国ランキングにおいてベトナムは48%で1位。オフショア開発を行っている日本企業の約半数がベトナム企業をパートナーとして選んでいることが分かります。ベトナムがオフショア開発先として人気を集める理由は、人件費を抑えられることなどの他に、AIを初めとする先端技術に対応できるエンジニアが豊富など技術力の高さも挙げられます。

しかし技術力の高まりやベトナム国内の経済成長に比例して、人件費は年々上昇傾向にあり、かつての中国が辿ったように、コスト削減のためにオフショア開発を委託するよりは、技術力の高いグローバル人材の活用を目的とした委託が増えていくことが予想されます。

ベトナム人エンジニアの技術力が高い理由

ベトナム人エンジニアの技術力が高い背景には、ベトナム政府がIT人材の輩出に力を入れていることが大きく影響しています。Vietnam IT Market Report – Tech Hiring 2022によると、政府の方針として2030年までにベトナム国内のIT企業を7,000社、エンジニアは150万人にすることを目標にしており、毎年57,000人のIT学生を輩出しています。またWorldwide in Developer Skills Charts of Skillvalue’s Report 2019ではベトナム人エンジニアのスキルレベルは世界で29位という結果で、東南アジア諸国で唯一ランクインしました。国を挙げてIT人材の育成に力を入れているベトナムは今後も技術力の高いエンジニアが増えていくでしょう。

▼ベトナム人エンジニアの技術力に関してはこちらの記事でも詳しく紹介しています

ベトナム人エンジニアの技術レベルを考察!採用する際に知っておきたい特徴とは?

ベトナム人エンジニアを採用する日本企業が増加

前述した技術力の高さに加えて、日本語能力の高さもベトナム人エンジニアの魅力です。Vietnam IT Market Report – Tech Hiring 2022によると、ベトナム人エンジニアのうち8.4%がビジネスレベルの日本語を使用して就業しており、他国と比べてベトナム人エンジニアは日本語学習の意欲が高いことが分かります。

そのためオフショア開発先としてではなく、自社でベトナム人エンジニアを採用する企業も増えており、ベトナム人エンジニアと日本企業をマッチングする採用プラットフォームxseeds Hubを利用する企業の数も2014年から2022年にかけて約2.5倍に増加しています。

しかし近年ベトナム人エンジニアの技術力の高さは世界からも注目を集め始めており、コスト削減を主目的とする日本企業よりも多くの収入を見込める他国の企業やベトナム国内企業に魅力を感じるベトナム人エンジニアも増えており、日本企業の求心力が問われ始めています。

ベトナム人エンジニア

現場レベルでは日本就職の意欲低下に懸念の声も

– xseedsは日本企業への就職を希望するベトナムのテック学生の就職支援を行っていますが、そもそも彼らは日本企業のどのような点に魅力を感じているのでしょうか?

学生からよく聞くのは、「日本人の働き方を身につけたい」という声です。チームでの連携だったり、時間や期日を守る性格だったり、ホウレンソウがしっかりしている点だったりを、日本人とともに働くことで身につけたいという学生は多いです。あとは”企業”というくくりではありませんが、安全性や衛生面などにおいて日本という国の生活環境の魅力はやはり大きいようです。また「日本で子育てをしたい」という声も少なからず聞きます。

アメリカやヨーロッパに比べて地理的な近さがあることも影響しているかもしれません。ベトナム人は家族をとても大切にするため、帰省のしやすさなどから、比較的距離が近くかつ安全性の高い日本を就職先に選ぶ学生が多いのだと思います。

– 学生と触れ合う中で、日本企業への就職意欲に変化を感じますか?

現在xseedsが提携する大学の学生は約2,700人に上ります。そのうち日本企業への就職を希望する学生は4割程度で1,000名を超えています。私が入社した2017年時点では学生の総数自体が600名程度で、日本就職を希望する学生は500名程度でした。絶対数で言えば、xseedsが日本企業への就職を支援するベトナム人学生の数は6年で2倍以上になっています。

とはいえ日本企業への就職を希望する学生の割合は減少しており、特にこの1-2年は学生の就職面談を担当するメンバーからも「日本就職に魅力を感じる学生が少なくなっている」という懸念の声がちらほら出ているのも事実です。

円安やコロナ禍など社会情勢の変化が影響

– 日本企業への就職意欲の変化にはどのような原因があるのでしょうか?

大きく3つあると思います。ひとつは円安による円の価値の低下です。就職先を決める上で給与はやはり大きなインパクトがありますし、特にベトナムは外資系企業が多く参入しており外貨の変動を比較しやすい状況にあるため、円安が続くことで日本企業への就職が見劣りしてしまう可能性はあります。また、先ほどもベトナム人は家族を大切にすると言いましたが、海外就職を希望する学生は必ずと言っていいほど家族へ仕送りをします。そこが減ってしまうことも懸念材料だとは思います。とはいえ通貨の価値は常に変動しているため、これに関しては今後も注視していきたいところです。

また新型コロナウイルス感染症拡大によってリモートワークが社会的に浸透したことも影響しているのではないかと思います。極端な話、ベトナムにいながら日本人と仕事をすることが可能になったのです。前述のように「日本人の働き方を身につけたい」というのが日本就職のモチベーションである求職者にとっては、渡日せずとも日本企業の働き方を学び取ることができるため、日本居住が必須条件である場合は就職のメリットを低く感じている人もいるかもしれません。

もうひとつ、ベトナム自体が目覚ましい経済成長を遂げていることも挙げられます。2022年のベトナムのGDP成長率は8.02%とASEANの中でもマレーシアに次ぐ2位という結果になっています。それに比例して国内企業の報酬も上昇傾向にあり、ベトナムにおけるシニアエンジニアの給与は昨対比8.97%と高水準になっています。なので、日本企業の魅力が下がっているというよりは、円安などの影響もあり相対的にベトナム国内での就職の魅力が上がっているという現状はあると思います。

xseeds Hubが高い内定承諾率を誇る理由

– そのような中でも、xseedsの選考会に参加する日本企業の満足度は高く、2022年度の採用目標達成率は135%となっています。理由はどの辺りにあるのでしょうか?

理由はいくつかあると思いますが、xseedsが単なる採用サービスと異なり教育から携わっている点が大きいのではないかと思います。入学から卒業までの4年間という長い時間を学生と関わるので、1年次から就職活動に関する知識を身につけてもらったり、日本就職の意欲を醸成するための取り組みを大学と提携して行っています。さらに学んでいる内容も、日本の大学では実現するのが難しいような実践的なカリキュラムになっており、4年間しっかり学業に打ち込んだ学生は総じて優秀な人材に成長しています。キャリア形成とスキル両面から支援をし、日本就職意欲の高い優秀な学生が豊富にいる中から採用できるというのが特長です。

海外トップ大学の優秀層があつまるエンジニア採用プラットフォーム

今後日本企業はどうすべき?

– 社会が大きく変化し続ける中、日本企業は今後どのように進んでいくべきだと思いますか?

明確な答えがある訳ではありませんが、実は日本企業は経済複雑性指標が20年間1位という記録を持っています。これはモノを生み出した数ではなく、生み出したモノに関する知識の蓄積量を指し、GDPとの相関関係があると言われています。一方で世界デジタル競争力ランキングでは29位にとどまっており、特に「ビジネス上の俊敏性(Business Agility)」においては最下位という結果になっています。日本企業はビジネスの複雑性を読み解き知識として集積していくことに長けているが、変化に柔軟かつスピーディに対応し新しいものを生み出すことに弱みを持っているということになります。

経済複雑性指標の強みを活かすにはデジタル技術を活かしていくことがカギであるとも言われているので、グローバルに視野を広げて優秀なエンジニアを採用し、企業のデジタル力を底上げすることで成長を促進していけるといいのではないかと思っています。