そんな中で、国内に留まらず、海外のIT人材獲得に解決の一手を見出す企業が近年増加傾向にあります。一方で、言語や受け入れ体制がハードルとなり、初歩を踏み出せない企業も多いのではないでしょうか。そんな企業の採用担当者に向け、Sun*では、2023年9月13日にオンラインイベント「日本語どこまで求める?海外トップレベルの外国人エンジニア採用」を開催しました。

イベントでは海外IT人材の派遣と雇用に知見の深い2名の登壇者に、在留外国人数の現状や外国人採用を阻んでいる課題、海外IT人材が活躍できる企業の体制などについてお聞きしました。本記事では、イベントの模様をレポートでお届けします。

株式会社グローバルパワー 代表取締役社長
一般社団法人 外国人雇用協議会 戦略担当理事
竹内 幸一 氏

1974年東京生まれ、群馬育ち。カリフォルニア州立大学サクラメント校中退後、外資ワイン商社~大手人材会社へ。2005年に社内ベンチャーで外国人支援事業を立上げ~事業部MBOでグローバルパワー設立に参画し、2010年に代表取締役に就任。『国内優秀層外国人求人サイトNINJA 』を運営。(現任)2016年に一社)外国人雇用協議会(会員数・現在約100社)を発起人として設立、理事就任。(現任)2022年に文科省「戦略的な留学生交流の推進に関する検討会」委員。(現任)出演メディア;ガイアの夜明け・WBS・NHKスペシャル等多数。著者『知識ゼロからの外国人雇用(幻冬舎・2020年)』

株式会社Sun Asterisk CTOs
斎藤 幸士 氏

情報通信系研究所などでプログラマとして勤務後、スタートアップを立ち上げ。その後出資企業だったベーシックへ入社し、マーケティングオートメーションツールの開発・採用・事業推進などの分野で活躍。「ferret One」開発責任者。 2007年に独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の「未踏ソフトウェア創造事業」に採択され、ビジネスシーズのプロトタイプを開発・発表した経験を持つ。 2021年1月からSun*に参画し、大手企業・スタートアップの助っ人CTOとして従事。

円安の最中でも、増える在留外国人数

– 本日はグローバル人材の採用に深い知見を持っていらっしゃるお2人にご登壇いただいております。竹内さん、斎藤さん、よろしくお願いします。

竹内幸一さん(以下、竹内)
株式会社グローバルパワー 代表取締役社長の竹内幸一です。グローバルパワーは、日本で働きたいグローバル人材・グローバル人材を採用したい企業のための求人サイト「NINJA」を運営しています。NINJAには、29種ある日本の在留資格の中の「技術・人文知識・国際業務(以下、技人国)」の在留資格を保持した方を中心に約4.3万人の方が登録しています。グローバルパワーは、外国人が企業で活躍することにより、クライアント企業の事業発展に貢献したいと考えております。

また、弊社自体もグローバル化が進んだ企業です。従業員約90名のうち、約7割が外国人です。私個人として、一般社団法人 外国人雇用協議会 戦略担当理事も勤めております。本日はよろしくお願いします。

斎藤幸士さん(以下、斎藤)
株式会社Sun Asterisk(以下、Sun*) CTOsの斎藤です。Sun*は、「誰もが価値創造に夢中になれる世界」をVisionとして掲げているDigital Creative Studioです。企業さまの事業創造に寄り添って、価値創造のインフラになることを目指しています。グローバルで2,000名ほどの社員がおりまして、主にベトナムに1,500名ほどのエンジニアやクリエイターが在籍しています。

また、Sun*の教育事業として、グローバルに才能の発掘・教育・最適配置を行って未来のイノベーターを輩出する、”xseeds“事業を運営しています。グローバルにコンピューターサイエンスのTOP大学と産学連携で教育を提供し、日本企業へ新卒エンジニアとして採用支援する事業になります。私自身、前職の会社でクライアントとしてxseeds Hubを活用し、優秀な外国人エンジニアを採用・開発組織の内製化を担当していました。本日は、外国人エンジニアを採用する立場の経験をみなさまにお話しできればと思います。どうぞよろしくお願いします。

– 最初のトークテーマは「高度IT人材のマーケット」です。まずは竹内さんに、在留外国人の現状について解説いただきたいです。
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竹内
令和4年末のデータでは、在留外国人は過去最高の307万人でした。コロナウイルス感染拡大の影響で、一時期落ち込んでいたものの、すでに回復しました。この人数は、簡単にいうと日本に住んでいる人の40人に1人は外国籍を保持している、ということなんです。
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NINJA経由で採用された方の職種は、「IT・Webサービス・ゲーム系」が最も多く、全体の20%を占めています。そのうちの27%がSE(システムエンジニア)とPG(プログラマー)になります。外国人エンジニアの需要の高まりを感じますね。

– 昨今、円安や不景気など、日本経済のネガティブなニュースが連日報道されています。それでも在留を希望する外国人は増えているのですか?

竹内
増えていますし、今後もその傾向は変わらないのではないでしょうか。確かに、日本経済を不安視する声はあります。そのため「お金のために日本で出稼ぎで働きたい」人は減ると予想しています。ただ、「日本が好きで、日本語を学びたい、日本に住みたい」人は、多少の円安で影響を受けることはないでしょう。また、日本の魅力は経済だけでなく、住環境や治安のよさにもあります。“住めば都”で、日本から帰る人も減っていますね。

斎藤
報酬面に惹かれて日本で働く方もいらっしゃいますが、「日本文化が好きだから」という理由で日本を選ぶ方はかなり多い印象です。

外国人採用に悩む企業の課題とは?日本語力への企業の対応

– 続いてのトークテーマは「外国人採用に悩む企業の課題」です。Sun*は独自のプログラムを通じて、企業の外国人エンジニアの採用を支援していますね。

斎藤
さきほどもご紹介しましたが、Sun*は、xseeds Hubというプログラムの運営をしております。

Sun*はベトナムのハノイ工科大学を中心に4カ国12大学に対して、産学連携によって正式に学科を置かせていただいて、日本語と実践的なIT教育を提供しています。ハノイ工科大学は国際的に有名な理系大学で、国内の優秀な若者が集う学校です。ベトナムトップレベルの学生に対し、大学4年間かけて1,200時間ほどの日本語とITの教育を提供し、卒業生の日本企業就職のサポートまで行っています。元々は外務省のJICAが手掛けるODA事業が起源になっているのですが、この事業を2014年に民間企業として継承して今に至ります。これまでで、700名以上の海外トップ大学の学生を日本の企業さまへ新卒エンジニアとして紹介してきた実績があります。

– 支援してきた企業のなかには、採用に至らないケースもあったかと思います。

斎藤
はい。Sun*は10年近く外国人学生と日本企業の橋渡し的存在として機能してきました。多くの企業に活躍する人材を新卒エンジニアとして送り出して来ていますが、中には、外国人で新卒エンジニアを採用する事に抵抗感があり、そもそも、採用の手前になる、面接選考会への参加自体をお見送りされる企業ももちろんいらっしゃいます。
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その内訳を見てみると、「長期的に検討したい(今じゃない)」と判断した企業が35.2%で最も多いお見送り理由でした。国内人材の採用を優先される企業も多くいらっしゃいます。しかし、人口減少に伴って国内のIT人材の減少も避けられません。今後はこの内訳にも変化がでるのではと予想しております。

「日本語力が懸念」を理由にお見送りされる企業もいらっしゃるのですね。どの程度の日本語力を企業側は求めているのでしょうか?
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竹内
「技人国」の在留資格保持者は31万人、うち4.3万人がNINJAに登録しています。その半数近くが日本語能力試験(JLPT)のN1レベルなんです。N1はTOEICで考えると800点くらいのイメージでしょうか。かなり高レベルですよね。

斎藤
日本語能力試験のN1の問題を見たことがありますが、正直、私でも間違えてしまうくらいの難問でした……。

竹内
日本企業側が日本語力を求めている現状が、このような結果に反映されているんだと思います。しかし、本当にN1レベルの日本語力が入社時に必要なのかは疑問です。N3レベルはTOEIC600点の語学力だと思ってください。それって、かなり努力したうえで獲得できる点数ですよね。つまり、N3以上であるということは、努力ができる証明なんです。伸び代がしっかりある。

斎藤
エンジニア職だと、入社時に日本語力が低かったとしても、エンジニア間のコミュニケーションがとれれば問題ないですよね。竹内さんがおっしゃるとおり、伸び代も加味して評価する必要があると思います。ハノイ工科大学の生徒は、日本でいう東大生のようなもの。地頭がよく、努力の仕方を理解しているんですね。学習し続けないと卒業できない大学を出た上で、外国へ就職する意欲まであります。なので、日本へ住みさえすればあっという間にネイティブレベルの語学力に成長します。

竹内
「日本語がうまければ、きっと優秀だろう」と企業側が勘違いしているのかもしれませんね……。努力できる力の方が、優秀な人材に欠かせない要素じゃないでしょうか。あとはコミット力。「日本語の助詞の使い方が正しくできているか?」より、約束したことをしっかりやり切る力があるのかを見極めて欲しいです。

求めるレベルをN2、N3まで下げることで、相対的に採用の優位性がかなり上がります。

斎藤
そもそも採用したいのは優秀な技術者であって、日本語話者ではないですからね。

– 日本語能力が採用のハードルになることを解決しようと、開発現場の英語化を実施するケースもあると聞きます。実際に乗り出している企業はあるのでしょうか?

斎藤
株式会社マネーフォワードはxseeds Hubを通じてベトナム人エンジニアの採用を行っています。最近では社内コミュニケーション言語を英語化しようと積極的に動いていらっしゃるんです。今後、さらに海外人材獲得に優位になられるのではないでしょうか。

外国人エンジニアが活躍できる企業へ。具体的な対策や社内制度

– 3つ目のトークテーマは「外国人採用を受け入れることで広がる未来」です。外国人エンジニアの採用事例を教えてください。
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斎藤
xseeds Hubへの参加社数・採用決定学生数は、開始した初年度(2014年)は15社・35名にとどまっていました。しかし、昨年の2022年は50社・100名以上の数にまで増え、年々その数は急激に伸びています。学生側の数も増え続けていまして、例えば、ベトナム国内でも「ハノイ工科大学の日本語IT学科へ入学すれば、本当に日本企業への就職が叶うぞ!」と話題となり、人気学科に成長しています。当初は500名弱だった学生数も、直近では全学年で2,700名ほどの規模に成長しており、毎年700~800名の学生がxseedsの学科に参加して来てくれています。

このような実績に伴い、採用に成功した事例も多く届いています。さきほどもご紹介したマネーフォワードでは、国内で新卒採用を開始するよりも、ベトナムでの新卒採用に踏み切っていたんですよ。例えば、ハノイ工科大学を卒業した優秀な学生さんで、新卒で入社して3年目でグループ会社のCTOに就任するような子を採用してらっしゃったりします。

マネーフォワードは海外拠点を増設中です。海外人材を採用していれば、じっくり日本で育成し、ゆくゆくは拠点を任せることもできますよね。そういった人材配置も、外国人エンジニアの獲得に積極的に動いたメリットとしてあります。

竹内
ネイティブのベトナム語が話せるのは、日本人の新卒エンジニアが持ち得ないアドバンテージですもんね。海外拠点のマネジメントは、ネイティブスピーカーに任せた方が体制として盤石なものとなります。また、企業幹部に外国籍の方がいらっしゃることで、海外採用の強みになりますよね。

そういった、外国籍を保有しているからこそ企業側がメリットとして享受できるものに対しての評価も重要ですね。

– 採用することで得られることがある一方で、入社後のミスマッチを心配する声も聞きます。ミスマッチを事前に防ぐための対策はありますか?

竹内
ジョブディスクリプション(職務内容記述書)の作成をおすすめします。ジョブディスクリプションとは、求人票の内容をさらに細かく指示しているドキュメントを指します。ジョブディスクリプションを企業側が開示するのは、海外企業では一般的なことです。

日本は、ハイコンテクスト文化と表されることが多々あります。「言わなくても、空気読んだらわかるでしょ」と、文脈を読むことを求められがちなんですね。でも、それって当たり前のことじゃないし、思い違いが発生する環境の温床になる恐れがあります。

なので、入社前に、ジョブディスクリプションを元にして、企業側と外国人エンジニア側での明瞭な合意形成を行うといいでしょう。

斎藤
ミスマッチに繋がる前に、正直に話してもらう心理的安全性の高い環境づくりも欠かせませんよね。ベトナム人は、ネガティブな状況の報告を避けようとする人が多い印象です。その背景には、「できない、難しい」と発言することによって、自分の評価が下がることを恐れる気持ちがあります。

しかし、開発現場では、むしろネガティブなフィードバックはプロダクト成長のため歓迎すべきことじゃないですか。なので、報告をすることがマイナスに繋がらないとしっかり伝える必要があります。

– 外国人エンジニアは、異国の地で外国人に囲まれて働いています。不安を抱きやすい方もいらっしゃるかもしれませんね。ほかに、心理的安全性を高める工夫はしていましたか?

斎藤
前職でベトナム人学生を採用していたときは、内定から実際に日本へ来てもらうまでの約1年の間で、人事と代表がベトナムを訪れる機会を作っていました。内定者の親御さんをハノイに招待し、「お子さんは会社でしっかりと育てます」というメッセージと共に直接、会社説明をするんです。ベトナムでは、家族を大事にする文化が根強い。家族に協力してもらう体制を、企業側が一緒になってつくることで、内定者の心理的安全性の向上に成功していたと思います。

– 外国人社員への福利厚生や研修制度で喜ばれるものはありますか?

竹内
やはり長期休暇の取得しやすさは外国人にとって大きな魅力です。少なくとも1週間の休暇がいつでも取れるようにし、さらに年に1回は2週間の休暇が取れるといいですね。

斎藤
アジアだと旧正月に長期休暇を取る人が多いので、その期間に休めるよう企業側が配慮してほしいです。航空券代も新卒の社員にとっては大きな出費となりますから、渡航費用を負担する企業もあります。

給与に関していうと、入社前後の金銭面のサポートを整えていると、内定者に喜ばれます。日本企業の給与支払いサイクルだと、入社して2ヶ月は手元にまとまったお金がない状態になりかねません。日本より貧しい国から移住してくる人にとって、その状態は、日本企業就職自体を断念する理由になる可能性があります。たとえば、入社準備金として、事前に一時金の支払いをする制度があれば、安心して内定を承諾することができるでしょう。

竹内
日本語の勉強費用を会社側が負担している企業は、採用競争力が強いと感じます。さきほども触れた通り、日本が好きで、日本語が話したいから就職を希望する人は多い。そういう方にとって、日本語が勉強できる環境はかなり魅力的です。

– 最後に、外国人エンジニアの採用を検討している企業へ、メッセージをお願いします。

斎藤
xseeds Hub経由の新卒採用をお見送りした理由で、「今じゃない」とお答えしている企業が多くいらっしゃいました。しかし、私からは「むしろ今なんです」とお伝えしたいです。

円安などで日本経済に不安がありながらも、それでも日本を選んでくれる人がいて、在留外国人が増え続けているのは、奇跡的状況だと思います。今であれば、国際的に活躍できるトップレベルの人材が採用できます。現段階で外国人エンジニアへの門戸を開いておくことで、さらに人材獲得競争が激化した際にも、次の世代の採用がスムーズになるでしょう。企業としての長期的未来を考えれば、今、動かない理由はありません。

竹内
海外採用をするなら、ぜひ1日でも早く取り組んでください。20年前の日本は、女性の社会進出を後押ししようという動きが活性化していた時期でした。当時、「でも女性を採用して、育休・産休はどうするの?制度を新しくしないといけない?それって面倒では?」と、二の足を踏む企業は多くありました。それが2023年の今日、どうなっているでしょうか。性別を理由に優秀な人材を逃すような企業は、残っていないと思います。

外国人雇用も、同じ流れを辿ると予想しています。日本人を採用するよりも、企業側の手間は増えるでしょう。しかし、彼らの力を戦力として取り込めない企業が、これからの日本の人材獲得競争に勝てるでしょうか。20年後、20歳を迎える人は70万人しかいません。ますます狭くなる採用市場で、それでも外国人雇用を渋るのでしょうか。

企業を強く成長させていくには、外国籍の方が活躍できる環境づくりは必須です。今、性別関係なく活躍できる社会になっているように、20年後を見据え、国籍関係なく活躍できる企業を作っていきましょう