DEIとは?

DEIとは「Diversity(ダイバーシティ・多様性)」「Equtiy(エクイティ・公平性)」「Inclusion(インクルージョン・包括性)」の頭文字を取った言葉で、組織が多様な人材を包括し、個々の能力が最大限発揮できる公平な機会を提供することでイノベーションを生み出し価値創造へつなげる経営を目指すことを意味します。

Diversity(ダイバーシティ・多様性)

Diversity(ダイバーシティ・多様性)とは、多様な人材が組織に集まっている状態のことを指します。多様な人材とは、性別・年齢・人種や国籍・障害の有無などの表層的な多様性だけではなく、LGBTQなどの性的指向・宗教・価値観・キャリア・経験・働き方など見た目では判別できない深層的な多様性も含まれます。

しかし、ただ多様な人材を集めただけでは本質的にダイバーシティな組織とは言えず、逆に組織内での不公平感や居心地の悪さを引き起こしかねません。本質的なダイバーシティ経営を進めるために導入された概念が、次で紹介する「Equity(エクイティ・公平性)」と「Inclusion(インクルージョン・包括性)」なのです。

Equity(エクイティ・公平性)

Equity(エクイティ・公平性)について語られる際によく引き合いに出されるのが、Equity(エクイティ・公平性)とEquality(イークオリティー・平等)の違いです。以下は、両者の違いを表したイラストです。

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イークオリティは、イラストの左側のように全ての人に等しく何かを与えた状態を指します。しかし多様性が考慮されていないために、必要以上に与えられている人や不足している人がいることが分かります。これでは特定の人が優遇されているように感じる人が出てきてしまい、組織に対する不満がたまり離職率の増加などにつながる可能性もあります。

一方でイラストの右側を見ると、個々人の特性に合わせて適切な配慮がされているため、全ての人が同じ利益を享受できていることが分かります。

エクイティを推進するためには、個々人の特性や状況に合わせて制度を整備する必要があるため、一定のコストがかかります。そのことを念頭に置きながら、多様なメンバーがすべからく公平に挑戦する機会が与えられる組織づくりへ取り組む必要があります。

Inclusion(インクルージョン・包括性)

Inclusion(インクルージョン・包括性)とは個々人が「尊重されている」と感じられる状態を指します。そのためにはメンバーの一員として認められていることと、個々人が持つ独自の価値が認められていることが必要です。

裏返すと、下の図にある排他同化分化の状態を解消することで、インクルージョンの風土を醸成することができるといえます。

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DEI推進において陥りやすいのが「分化」「同化」です。

例えば外国籍社員に対し、海外進出に関して言語や文化的側面のみアドバイスを求め、全体の方針など重要項目を日本人社員で決めるなどは「分化」に当てはまります。またシニア社員が「昔の経験を語ると社内で疎まれる」と考えて有益な知識の共有を控えるような場合は「同化」の状態といえます。

インクルージョンの風土を作り出すためには、先述したエクイティな制度が土台として整えられた上で、個々人がそれを理解し納得感を持っていることが重要になります。挑戦しやすい・声を上げやすい心理的安全性が担保された組織を目指してインクルージョン風土の醸成に取り組む必要があります。

DEIを推進する必要があるのはなぜ?

DEIとは何かについて説明しましたが、そもそもなぜDEI推進の必要性が注目されているのでしょうか?

ひとつは少子高齢化への対策です。労働人口の減少に伴い多くの企業が慢性的な人手不足に悩んでいます。女性やシニア・外国籍人材に能力を発揮してもらうことで、人材の母集団を拡大することができます。

さらに海外企業の日本進出や日本企業の海外進出など、企業がグローバルな環境で事業を展開することも一般的になってきました。その点でもDEI推進に大きな利点があります。特にグローバル人材を採用することは重要で、外国籍人材を採用する企業も増加傾向にあります。

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またグローバル化が進み異なる価値観やニーズが日本社会へ流入することで、企業を取り巻く環境に変化が生じています。従来の日本人男性中心の人材戦略のままでは、変化に対応する柔軟性が欠け、イノベーションが起きづらいというリスクが考えられます。

そのためDEIの考え方を取り入れ、多様性に富む人材が主体的に意見やアイデアを交わす組織こそ、変化の激しいこれからの時代を生き抜いていくための競争力を身につけることができるのです。

DEI推進による具体的なメリット

DEI推進の必要性についてお伝えしましたが、企業側にどのようなメリットが生まれるのかを具体的に紹介します。

①人材不足が解消される

PwCが実施したミレニアル世代を対象にした調査によると、男性で8割、女性で9割近くが就職の際にダイバーシティへ配慮している企業かどうかを重視していると回答しました。この結果から、ダイバーシティを推進することは若い人材のアトラクトにつながり、採用力が強化されるといえます。

また女性やシニア・外国籍人材の雇用や活躍を促進することで、これまで育児や介護、年功序列の制度によって働きたくても制約を感じていた人材に活躍してもらうことができます。人材の母集団を拡大し、新たな労働力を活用することで、慢性的な人材不足の解消につながります。

②イノベーションが生まれやすくなる

DEI推進によって最も期待されるメリットは、イノベーションが生まれやすくなることです。

女性やシニア、外国籍人材、LGBTQ、障がい者など多様なバックグラウンドと特性を持つ人々が集まる組織は、多様な観点や価値観からのアイデアが出てきます。かつ、それぞれの意見やアイデアを尊重する文化がしっかりと作られていれば、これまでにないイノベーションを事業やサービスに取り入れることができます。

また課題に対しても多面的な角度から検討することができるようになり、解決への糸口を見つけやすくなることが期待できます。

③ESG経営企業として評価につながる

DEIを推進し本質的なダイバーシティが成し遂げられている企業は、ESGの観点からも評価を得ることが期待できます。

そもそもESGとは「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の頭文字を取った言葉で、投資の文脈で注目を集めるようになり、企業の成長性を評価する上で重要視されつつある考え方です。

企業の財務情報だけではなく、ESGに配慮した経営を行っているかどうかを考慮する投資家は増加しています。つまりESGの観点で評価が高い企業は、投資価値が高いとみなされるのです。

では具体的に、DEIを推進することでどのようにESGの評価へつながるのでしょうか?

「ESG投資実態調査2022」によると、エンゲージメントにおいて重視する項目のうち2位が「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」でした。DEIを推進することでESGのうちSocial(社会)領域への取り組みと紐づけられるのです。

また取締役会に女性を入れるなど、多様性を重視した取締役会の構成にすることで、Governance(企業統治)領域においてもDEIの貢献が期待できます。実際リーマンショックから早期に回復した企業の多くは女性取締役がいたりと、グループシンキング(均質的な組織が不合理な意思決定をすること)のリスクを回避するためにも重要視されています。

DEIを推進するためのポイント

これまで、DEIが注目されてきた背景や具体的なメリットについてお伝えしてきました。次に、実際にDEIを企業内で推進していくために必要な3つの要素を解説します。

①経営者の取り組み
②人事管理制度の整備
③現場管理職の取り組み

これらの3つの要素がうまく噛み合っている企業は、採用面だけではなく事業成長においても良い効果が現れています。本質的なDEIの推進するためには①から③の全ての足並みを揃えることがカギになります。

①経営者の取り組み

ひとつ目の要素となる経営者の取り組みは、経営層がDEIの重要性を認識した上で、DEIの観点を経営方針や理念に盛り込むことを指します。またその経営方針や理念を従業員に浸透させるための働きかけも重要です。

DEIは従来の組織構成を変えることになるので、既存従業員の理解を得なければ推進することはできません。普段から従業員と向き合い信頼関係を築くことで、多様性を重視した人材戦略を行っていくことに対する理解を得やすくなるでしょう。

②人事管理制度の整備

本質的なDEIの実現には、多様な人材の活躍のための土台となる人事管理制度の整備が必須です。ここをおろそかにすると、先述のEqutiy(公平性)が担保されず、組織内にフラストレーションがたまることになりかねません。

そもそも多様な人材を採用するための施策を実施しているか、採用した人材が能力を発揮するための勤務形態や体制・制度が整備されているか、そして多様な人材が希望するキャリアを描くための能力開発に投資しているかなどが当てはまります。

③現場管理職の取り組み

DEIを推進した際、実際に入社してくる多様な人材と業務をともにするのは現場管理職です。その現場管理職が多様な人材に活躍してもらうために主体的に取り組むことも大切です。

現場管理職が気をつけるべき点は以下のようなものが挙げられます。

・個々人の特性に合わせた業務を振り分ける
・振り分けた業務がどのように組織目標へ結びつくか明確化する
・従業員が希望するキャリアから逆算した業務を与える
・業務の進捗状況を把握する
・働き方を縛らない柔軟なワークスタイルを許容する
・公正な人事評価を行う

大切なのは”取り組み”と”振り返り”を繰り返すこと

DEIの推進は、これまでの組織構成を変化させ新しい価値観を取り入れることであり、実現にはそれなりの時間を要します。この項でご紹介した「経営者の取り組み」・「人事管理制度の整備」・「現場管理職の取り組み」も、一度でうまくいくことはありません。

そのため大切なのは”取り組み”と”振り返り”を繰り返すことです。取り組みに対する人材・事業の数字の変化や従業員の反応を元に改善をし、また振り返りを行う。このサイクルを繰り返すことで、多様な人材が活躍できる組織風土が醸成され、価値創造につながるのです。

DEI推進の取り組み事例

DEI推進のポイントをお伝えしてきましたが、もっと具体的な事例を知りたいという方は、こちらの記事で実際にDEIを経営方針に盛り込み実践している取り組み事例をご紹介していますのでぜひ参考にしてみてください。

【人事必見!】取り組み事例から紐解くDEI推進のポイント

まとめ

DEIは、変化の多いこれからの時代を生き抜いていく上で、企業が身につけておくと非常に有用な考え方です。気をつけていただきたいのが、ダイバーシティ経営が重要視されるにつれて、ただ多様な人材を採用することがゴールになってしまうこと。形骸化したダイバーシティは従業員のフラストレーションを生み、非効率・非生産的な悪循環を招きかねません。

それを避けるために、本記事で解説しているように「Diversity(ダイバーシティ、多様性)」・「Equity(エクイティ・公平性)」・「Inclusion(インクルージョン、包括性)」の3つの要素を意識して、DEIを推進してみてください。