
はじめに:エンジニア採用の現状
ー 日本のIT業界では、エンジニア人材の深刻な不足が続いています。
新卒採用では理工系の母集団自体が縮小し、中途市場でも即戦力の取り合いが加熱しています。
リファラルやエージェントを活用しても、必要な技術や質を満たす人材を採用するのが年々難しくなっていると思います。そんな中「そもそも国内にいないなら、国外に目を向ける」という企業が少しずつ増えてきました。
その中でまず上がるのが、中国やベトナム、インドといったアジア圏の国々だと思います。ですが実は今、世界では南米、特にブラジルのエンジニア人材が注目を集めています。
この記事では、その理由と実態、採用の可能性についてお伝えします。
筆者プロフィール

1.世界から引く手あまたのブラジル人エンジニアとは
ー ブラジルは、人口約2億人の中南米最大の経済圏を持ち、若く優秀なIT人材が豊富な国です。
ブラジルは高等教育機関が充実しており、GAFAMをはじめとする世界的エンタープライズの進出をはじめ、北米や欧州の多くの企業やスタートアップが開発拠点をブラジルにおいていることから、世界トップレベルの開発現場で経験を積んだグローバルスタンダードなエンジニアたちが急速に育っています。
特にAI、クラウド、モバイルアプリ、フルスタックなどの技術領域においての開発が急速に進んでおり、実務経験をもつ若手人材が非常に多いことが特徴です。
最近では、2024年に Microsoft がブラジルの AI やクラウドサービス分野のインフラ整備・拡充のためブラジルに約4,000億円を投資。Amazon AWS はブラジルのデータセンター事業の拡大のため、2034年までに約27兆円の投資を行うことを発表するなど、その技術力が世界中から注目を集めています。
さらにブラジルのIT人材たちは英語力が非常に高く、多国籍チームでの開発経験も豊富なため、グローバルプロジェクトとの親和性も高いといえます。
2.欧米企業はなぜブラジルに目を向けているのか
ーすでに北米や欧州の多くの企業では、ブラジル人エンジニアの活用が急速に増加
欧米企業を中心にブラジル人エンジニアの活用が進む理由は3つあります。まず、スキルに対してコストパフォーマンスが非常に高いこと。次に、英語でのリモート開発に対応できること。そして、文化的にチームプレイを重視する国民性が、チームマネジメントやプロジェクト運営にプラスに働くという点です。
ブラジルのエンジニアたちは、学生時代から欧米企業などでインターンとして働くことが多く、実際に現場での開発経験が豊富です。欧米のアジャイル開発にも慣れているという点は、日本企業にも大きなメリットとして機能するといえます。
そして実は、北米や欧州を目指すブラジル人も多い中、一定数のブラジル人たちは、日本への就職を目指しています。

3.ブラジル人エンジニアはなぜ日本を目指すのか?
「なぜ北米や欧州などではなく、日本を選ぶのか?」という問いに、多くのブラジル人エンジニアたちは
「安全に安心して暮らせる国だから」
「キャリアを長く続けられる環境があるから」
「家族ができたら、子どもに良い教育を受けさせたいから」
などと答えます。日本では当たり前である、治安、インフラ、教育水準というのは、生活全体の安定を求める南米のエンジニアたちにとって、非常に魅力的な要素になります。
また近年は日本のアニメや漫画、音楽などのポップカルチャーの発展により、報酬条件だけをみて北米や欧米に行くという選択肢を選ばず、それらのポップカルチャーをより近くに感じたいという理由から、日本に移住することだけを目指すエンジニアたちも多くいます。

4.日本企業とのカルチャーフィットと適応性
「外国人=カルチャーギャップが大きい」と考える日本企業は多いですが、ブラジル人エンジニアはむしろ高い適応性を持っています。
ブラジルは、日本国外で世界最大の日系社会を持つ国であり、その日系人の数は現在270万人を超えて今もなお増加し続けています。
2025年に日本とブラジルの国交樹立130周年を迎え、これまでの長い歴史の中で、日本人移民たちは持ち前の技術や知識を生かし、ブラジルの文化や産業の発展に大きく貢献してきました。
主に農業や製造業など、現代のブラジルを支える産業の発展には、日本人移民たちが尽力してきました。その歴史は世代を超えて語り継がれ、今でも若い世代も含めた多くのブラジル人たちから深い尊敬の念を集めています。
ブラジルの人々は、日本人の礼儀正しく勤勉な姿勢や、他人を思いやる豊かな人間性に強い共感と憧れを抱いており、日本人とその文化に対して、他国と比べても特に強い愛着を持っていると言えます。
本来ブラジル人はチームワークを重視し責任感が強く、周囲との信頼関係を大切にするため、日本企業の価値観と通じる部分が非常に多くあります。
実際にこれまで弊社が採用を支援した企業様は、面接でブラジル人たちと会話したことで、その人間性と日本人との親和性の高さ、そして技術力の高さに驚き、採用枠を増やして採用を決めた企業も複数ありました。
その後、採用した企業様からは、ブラジル人エンジニアが日本人メンバーとスムーズに連携し、すでにプロジェクトの中心となり開発を進めているという嬉しい報告も受けています。

5.採用ハードルは“制度化”で超えられる
「ビザの取得は大変では?」「日本語が話せないと無理では?」といった声もあります。
しかし、実際には制度と支援体制さえ整えれば、スムーズに受け入れが可能です。
彼らは大学で高い専門性をもった知識と技術を習得してきているため、日本で技術・人文知識ビザが取得でき、これまで何か問題があって取得ができなかったということは一度もありません。
VISA申請の支援も弊社側で行っており、住居支援などを代行する支援会社を活用すれば、社内にノウハウがなくても問題なく導入できます。
また、弊社が卒業まで徹底して日本語教育のサポートも行います。
そして受け入れ企業様には入社までの期間、チームを巻き込み内定者と定期的なフォロー面談などを実施いただくことで、入社初期のギャップも最小化することができます。
ー来日した全員が「日本に来て良かった」
先日私が日本に一時帰国した際、ブラジルから来日就職した元 xseeds 生たちに会いました。
彼らは全員が
「日本に来て良かった」
「このままずっと日本で頑張っていきたい」
と非常に喜んでおり、私に感謝の気持ちを話してくれました。

ブラジルは距離的には日本から遠い国ですが、2024年末時点で日本に住むブラジル人の数は約21万人にのぼります。
これは日本に住む外国人の国籍別では世界で6番目に多い人数であり、そのうち約11万人以上が永住者であり、長期的に日本で暮らすブラジル人が非常に多いことがわかります。
この国籍別数ランキングでは、上位5か国(中国、ベトナム、韓国、フィリピン、ネパール)がすべてアジアの国々であり、ブラジルは非アジア圏で唯一トップランクに入っている国でもあります。そのことからも、特にブラジルが他国と比べて日本との親和性が高いことがわかるかと思います。
6.“今動く”が、組織発展のカギに

日本企業でブラジル人や南米のエンジニア採用に踏み切っている企業は、まだそこまで多くはありません。
しかし前途の通り、北米や欧州、アジアでも中国や韓国などの多くの企業は、すでに何年も前から南米、主にブラジルの高度人材たちの採用を積極的に行っており、彼らの技術力と経験を開発と技術の発展に大いに活かしています。
日本国内に目を向けても、今の段階からでもブラジル人材の採用に動き出す企業には、間違いなく競合よりも一歩先んじるチャンスがあります。
中長期的な採用力の格差は、採用競争の激化、給与水準の高騰、社員の離職リスクなどここ数年で大きく開くことが予想されます。
こうした課題を抜本的に解決するためにも、いまはとにかく“国内”にとらわれない採用戦略をいかに早く描き、動くことができるかが非常に重要です。
組織は短期的ではなく中長期で検討される企業がほとんどかと思います。
であれば、ブラジル人材の採用を視野に入れていただくことで、他社より優先的に、世界トップレベルの優秀層を獲得し、中長期的に組織を安定させていくというチャンスが広がります。
まずは、実際にブラジル人材のレベルの高さを見てみるところからはじめてみていただき、1名からでも採用に踏み切ってみてください。
おわりに:採用の“常識”を疑うところから始める
採用難に直面しているすべての企業にとって、今必要なのは、“これまでの延長線ではない選択” を決断することであると考えています。
日本の国内市場に固執せず、世界中の優秀な人材とどう出会い、どう受け入れていくか。
日本に長く住み、企業に長く働き貢献したいと考えてくれている彼らに、受け入れる側がいかに多様性をもち育てていけるかが、最も大切であると考えます。
日本企業の未来を支えるエンジニアは、もう国内にいるとは限りません。
「外国籍人材=定着が難しい」という先入観を一旦手放し、まずは柔軟な発想で採用戦略を見直すことが、これからを考える上で最も重要なのではないでしょうか。
それが、まさにこれからの時代に強い企業の“採用力”の源泉となると考えています。


