日本語ってやっぱり難しい!〜FSIやJLPTデータで読み解く日本語習得の壁〜
はじめに
日本企業の多くは、外国籍の方にも高い日本語のレベルを求める傾向にあります。ですが実際に学習する外国籍の方からすれば、日本語の習得はとても難しいです。
「日本語は世界で最も難しい言語のひとつ」と言われることがあります。これは単なる印象や文化的な壁だけでなく、言語構造、語順、敬語、そして読み書きの体系といった本質的な言語要素によっても裏付けられています。
Sun Asterisk(以下:Sun*)では、日々、学生の日本語力向上に取り組んでいますし、学生たちもかなり努力をして頑張っています。それでも、大学4年間の学習では流暢までには到達できません。それは日本語を習得するにはいくつかの壁があるからです。
この記事では、アメリカ国務省の外国語教育機関FSI(Foreign Service Institute)が公表している難易度ランキングや、日本語能力試験(JLPT)のデータを用いて、外国語学習者にとって日本語がどのくらい難しいのかを記事にしてみました。
ご参考にしていただけると嬉しいです。
1. 世界基準で見た日本語の難易度
■ FSIの言語難易度ランクと学習時間
FSI(Foreign Service Institute)では、英語を母語とする外交官が実務レベルで外国語を使えるようになるまでに必要な授業時間をもとに、世界の言語を4つのカテゴリーに分類しています。
カテゴリー言語例必要学習時間(目安)カテゴリーⅠスペイン語、フランス語約600~750時間カテゴリーⅡドイツ語、インドネシア語約900時間カテゴリーⅢロシア語、トルコ語約1,100時間カテゴリーⅣ中国語、韓国語、日本語約2,200時間
つまり、日本語は英語話者にとって最難関レベルの言語(Super- hard Languages)とされ、スペイン語やフランス語と比べると3〜4倍の学習時間が必要とされています。
Foreign Language Training | FSI
■ 英語と日本語の相互比較
日本人が英語を学ぶ場合、必要とされる学習時間はおよそ800〜1,000時間。これを基準にすると、英語話者が日本語を学ぶ難易度は2.5〜3倍以上であると推定されます。
2. 日本語が構造的に難しい理由:3つの壁
■ 壁①:語順の違い(SVO vs SOV)
英語は「主語+動詞+目的語」(SVO)という語順をとりますが、日本語は「主語+目的語+動詞」(SOV)です。
英語:I eat sushi.
日本語:私は寿司を食べます。
この「動詞が文末に来る構造」は、英語の語順に近い話者にとって非常に不自然であり、長文になればなるほど意味の把握が困難になります。
Sun*が教育事業を行っているベトナム、インドネシア、マレーシア、ブラジルで話されている言語は、英語の語順に近いです。そのため、0から日本語を学習する学生にとって、まずは語順を理解して慣れることが必要になってきます。
■ 壁②:助詞という未知の文法単位
日本語では、単語同士の関係を助詞(が、を、に、で、など)によって示します。英語のように語順で意味を決めるのではなく、語順が入れ替わっても助詞さえあれば意味が通るという点が学習者を混乱させます。
箸でスシを食べる
スシを箸で食べる
■ 壁③:敬語の複雑さ
日本語には尊敬語、謙譲語、丁寧語の3種類の敬語があり、相手との関係性や場面に応じて使い分ける必要があります。
尊敬語:社長がおっしゃいました
謙譲語:私が申し上げます
丁寧語:それはそうです
このような高度な社会的配慮は、言語だけでなく文化的理解も必要とされます。
3. 漢字・ひらがな・カタカナ:三種文字体系の負荷
■ ひらがな・カタカナ・漢字の三重構造
日本語には3種類の文字体系があり、それぞれが異なる用途で使われています。
文字種用途難易度ひらがな文法・助詞初級カタカナ外来語・擬音語中級漢字名詞・動詞・熟語上級
たとえば「コンビニでお弁当を買いました。」という一文では、3種類すべてが使用されています。こうした混在が読み書きにおける大きな認知的負担になります。
また、日本語の文字は50音と言いますが、「ばびぶべぼ」「ぱぴぷぺぽ」などの濁音/半濁音が付く文字や、「しゃしゅしょ」「じゃじゅじょ」など拗音が付くものもあり、さらに平仮名だけでなくカタカナも覚えなければなりません。そのため外国籍の方は、文字習得から混乱が起こりがちです。
■ 漢字の学習負荷は圧倒的
常用漢字:2,136字
小学校6年間で習う漢字:1,006字
中学校で習う漢字:1,130字
つまり、日本人でも12年間かけて習得する漢字を、外国人学習者は数年で習得しなければならないのです。
文字を習得しなければ、単語の意味も文章を理解することもできません。そのため、理解する前にかなり大きなハードルがあることが想像できます。
外国籍の方は、かなり根気強く学習をしなければいけないということになります。
4. JLPTデータで見る学習現場のリアル
■ JLPT(日本語能力試験)とは?
JLPTは日本語の読解・聴解・文法力を測る世界共通の検定です。
N1〜N5の5段階があり、N1が最難関です。
レベル合格率(2022年)N5(初級)約54%N3(中級)約42%N1(最上級)約30% (JLPT公式データ)
特に「N1」は上級学習者の登竜門であり、大多数が突破できない現実があります。
■ 合格基準の厳しさ
N1では3つのセクションすべてで足切り(19点以上)があり、総合100点以上(180点満点)が合格基準ですが、実際には75〜80%の正答率が必要とされています。
■ 10,000語以上の語彙が必要
N1合格者は、語彙力だけで約10,000語以上の単語を知っていることが前提です。しかもそれらは敬語、漢語、外来語、慣用句などを含み、多岐にわたる文脈での運用力が求められます。
さいごに
日本語は、世界的に見ても習得が非常に難しい言語のひとつであるとお伝えしてきました。 語順、助詞、敬語、文字そのどれを取っても、外国人にとっては大きな壁です。
それでも、あえて日本語を学ぼうとする人たちが世界中にいます。彼らはただの語学学習者ではなく、日本の文化に関心があり、日本で働くことに価値を感じ、わざわざこの難しい言語を学ぶ努力をしてくれている人たちです。
かつては「アジアで働くなら日本」と言われた時代がありました。そこから変化が起きています。
業務のオンライン化、リモートワークの普及、国境を越えた雇用の一般化など、「日本で働くこと」自体の希少性や優位性は、かつてほどではなくなってきています。
そんな中、いまなお日本語を学び、来日を希望する人々がいるという事実は、日本という国に、文化に、人々に、まだ魅力を感じてくれている証拠です。このような優秀で意欲的な人材を社会として受け入れ、活かせる柔軟な仕組みをつくれるかどうか。それが、これからの日本の国際競争力にも直結していくと考えています。